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2023年12月10日 (日)

zoom相談会-議事録-(2023.11.28)

議 事 録

目的:膵の会 zoom相談会

開催日時:20231127日(月)19:002000

場所:オンライン

 

<アドバイザー>

順天堂医院 小児科 鈴木 光幸(すずき みつよし)先生

順天堂医院 小児科 中野 聡 (なかの さとし) 先生

 

患者会出席者  8

・事前にいただいた質問事項について鈴木先生からの回答

・鈴木先生よりスライドを用いて膵管PS留置術のご説明

・質疑応答

 

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1)事前にいただいた質問事項について鈴木先生からの回答

小学3年生の男の子の保護者様より

ERCP、エコーなどの検査を定期的に受けておりますが、時折、慢性膵炎という言葉を先生から耳にします。気になり慢性膵炎についての本を読むと色々目にして少し混乱しています。どういった場合に慢性膵炎と診断されるのでしょうか。診断基準はありますか? 複数回膵炎が起きた場合を慢性膵炎というのでしょうか。それとも回数にかかわらず原因や膵臓の状態、検査から慢性膵炎という診断になるのでしょうか、教えてください。

慢性膵炎には診断基準があります(慢性膵炎診療ガイドライン2021、改訂第3版)。急性膵炎発作を反復して慢性膵炎に至るには、その途中経過があります。その時期が小児期に当たると「慢性膵炎のようだ(早期慢性膵炎)」という表現が使われることがあります。膵炎発作が1回のみ、あるいは数回起こしてもその後に発作がないようであれば、膵組織が元に戻り慢性化しないこともあります。

最近エコーで膵臓の様子を診ていただいた時に、膵臓にザラつきが見られるという話がありました。これはどんな状態なのか?(炎症後なので、かさぶたのようになっているのか)、また膵炎を起こさない期間が長くなれば改善していくものなのか、膵炎を数回でもおこすと見られる症状なのか等を教えていただけたらと思います。エコーを診ていただいたわけではありませんので分かる範囲で教えてください。

急性膵炎を起こした後に超音波検査をすると、膵臓内部がザラザラした状態に見えることがあります(エコー輝度の不均一と呼びます)。この状態は慢性膵炎でも観察されることがあります。単回あるいは数回のみの膵炎発作で経過が良好な症例では、膵組織の炎症が取れればザラザラした状態が改善することもあります。

今のような状態を保ったまま経過観察していく場合、先生でしたらどんな検査をしながら状態を見ていかれるのでしょうか。今は3ヶ月に一度通院した際に、尿検査、血液検査、身長と体重測定での成長や栄養の具合、アミラーゼとリパーゼを見ていただき、エコーは毎回ではありませんが行っていただいています。2021年にERCPをしたので、3年過ぎたらまたタイミングを見てやってみようかというお話を聞いています。前回のERCPは膵胆管合流異常がないかの確認だったのですが、ERCPは他にどんなことが分かる検査なのでしょうか。

基本的にはこの診療方針(流れ)で良いと思います。ERCPは侵襲的な検査ですが、膵管の形態(狭窄、蛇行、膵石など)がよくわかります。非侵襲的な検査としてMRCPがありERCPの代用となります。初期の慢性膵炎では経食道エコー(内視鏡の先端にプローべがあります)で膵臓の線維化が観察できることもあります。

 

24歳(男性)ご家族よりご相談

18歳のときに、突然膵炎を発症し、ERCPでの処置をしてもらいました。

以来食事等注意を払って生活しているのですが、数か月ごとに症状が出て、総合病院を受診するという状況が続いています。

現在24歳ですが、今年3月に激烈な症状があり、ステント留置をし、先日抜去して現在は経過観察中です。

不完全型の癒合不全と診断されているのですが、根本的な治療法はあるのでしょうか?

主治医からは「形なので食生活と規則正しい日常生活を送るしかない」

「胃腸薬については、消化できているので処方する段階ではない」

と言われているので、付き合っていくしかないのだと受け止めています。

膵管癒合不全は、現在の段階では内科的な治療はありません。膵管ステント留置術を行い細い膵管を拡張して膵液の流れを良くするのは治療戦略の1つです。ステントはすぐに抜いてしまうと再狭窄を起こし、膵炎発作を反復してしまうことがあります。そのため小さい穴をどんどん広げていって、太くし、その形が維持できるようにする必要があります。2−3ヶ月おきにステントを入れ替えながら徐々にステントの長さや太さを大きくして行く治療も行われています。

そのほかに日常生活での注意点などを教えていたただければと思います。

成人期膵炎の2大原因は、お酒とタバコです。禁酒、禁煙が勧められます。また脂っこい食事を控えるなどの規則正しい生活を送ることが大切です。

膵石の発生を抑えるにあたってのアドバイスをいただければと思います。

上記の回答とも共通しますが、成人期では規則正しい生活をすることで自然に膵石の発生も抑えることができると考えます。

 

18歳(女子)・遺伝性膵炎の患者さんの保護者様より

18歳5か月をむかえました。

高校に入ってからは、(胃腸炎で吐いたりは、年1度くらいありましたが、)膵炎の再発はなく、元気に生活しております。今後の生活についてですが、当面は、「現状維持ができればよい」といった感じでしょうか。膵性糖尿病の心配は、いつ頃から具体的な対策をとるべきでしょうか?(これは、個人差が大きいでしょうか?)

遺伝性膵炎の患者さんの(次にむかえる)問題は、膵性糖尿病の発症と発がんです。膵性糖尿病は40歳代以降に、膵癌は60歳以降に多くなるとの統計があります。その時に保護者の方がいるとも限りませんので、お子さん自身で病気の性質を理解し、予想できる環境を整えて行く必要があります。外来では血糖値やHbA1cなどの定期採血的を行っていくことが大事です。これらの項目は会社の健康診断での採血項目でもあります。また膵癌の可能性も考えて血液検査での腫瘍マーカーの確認や定期的に画像検査も必要となってくるでしょう。

 

2)鈴木先生よりスライドを用いて膵管PS留置術のご説明

膵管PS留置術とは、

細くなってしまった膵管の中に、筒状のプラスチックのステントを挿入し、数か月入れたままにして膵液の流れをよくすることで膵炎の発生を抑える処置です。

慢性膵炎になる原因や過程をはじめ、順天堂大学医院オリジナルの膵管PS留置術、症例、施術後の経過についてスライドを用いてステント画像も交えてご説明いただきました。(詳細の記載は控えます。)大変貴重なお話をありがとうございました。

 

<質疑応>>

質問1)

現在1年ほど膵炎をおこさず落ち着いていますが、これから成長するにつれて脂質をアップしていくのが必要だと思いますが、その前にステントをした方がいいでしょうか?

1年発作を起こしていないなら、脂質をアップして成長期のお子さんの栄養面を考えることが優先です。その過程で膵炎発作が起きてしまったら、次の治療ステップとして膵管ステント治療を考えればよいことです。再発を恐れて脂質を上げず、お子さんに必要な栄養素が取れないのは望ましいことではありません。

 

質問2)

10歳になり、脂質もアップでき、食欲もあり、よく食べるようになりました。

糖尿病のお話を聞いて、甘い物の食べ過ぎ、塩分を取り過ぎが気になりました。どのように考えた方がいいでしょうか。

今膵炎発作を起こしていないのであれば、現状の生活を維持すればよいです。糖をとるから糖尿病になるのではありません。糖尿病は相対的な摂取カロリーオーバー、運動不足、体質など多要因が原因となり発症します。塩分取り過ぎはよくありませんが、お子さんの一般的な食事で過剰摂取になることは少ないと考えます。食事のバランスを考えると脂質や糖質の過度な摂取や極端な制限はせずに、一般的な食事内容を心がけてください。

 

質問3)

①ステントを入れることで傷がつくことはないですか?

ステントを入れれば物理的に傷はつきます。まず、最初にステントを入れるために入り口(ファーター乳頭部)を切開することがあります。傷は塞がってしまうのでステントはしばらく留置して、傷が塞がらないようにする必要があります。次に挿入時に膵管内部を傷つける可能性や膵臓そのものを傷つける可能性もあります。

 

②25歳です。以前10Frのステントを入れました。その後1年半経ちますが、調子が良いです。どれぐらい経つと詰まってくる等の目安はありますか?

10Frは太めのステントです。数回入れ替えして、最終抜去から1年半経過しているのであれば膵炎発作を再発するリスクは低いと考えられます。定期的な画像評価(エコーなど)で膵管の形態(石がないか、狭窄がないか)を確認してもらうとよいでしょう。経験上、小児の患者さんでは2-3月毎に交換しながら1年ぐらい入れておけば膵管が再び細く戻ることは少ないようです。

 

③健康診断で空腹時の血糖値が110と、いつも基準値より高くでます。検診では特に何も言われませんが、とても気になります。ヘモグロビンA1cを追加項目として頼むべきでしょうか?

血糖値が110mg/dlであれば糖尿病予備軍である可能性があります。膵機能は、外分泌→内分泌(糖尿病)の順番で弱っていくことが多いので、膵内外分泌機能が両方とも落ちている可能性があります。主治医の先生にフォローしてもらってください。

 

質問6)

ステントを入れた後に、ステントを入れなおす事もあるのでしょうか?

再び膵炎発作を起こした場合にはステントを入れ直すことがあります。また、膵管内にドロが溜まって、その上流が拡張してきたりして、膵炎発作を起こす可能性が高まった方では入れ直すことがあります。入れ直ししないように規則正しい生活をすることが肝要です。

 

質問7)

①膵石は膵炎発作が起きると、できやすいですか?

膵石は膵液に溶けているたんぱく成分の塊です。膵管内にそのタンパク成分の核があると雪だるまのように大きくなり、膵管に詰まって、膵管を塞いでしまいます。膵炎発作が起こると膵管内に炎症が起き、膵管壁が傷つくことで膵石(蛋白栓)ができやすくなります。膵石は時間が立つと、石灰化し非常に固くなります。

②膵石をできにくくする薬はありますか?

膵石を予防する薬は現在のところありません。エビデンスはありませんが、ビソルボンという去痰剤(風邪薬の一種)が痰を柔らかくする作用があることから、膵石の元となる蛋白栓を予防する目的で内服を試みることがあります。臨床的な効果は今のところ不明です。

 

-最後に-

便秘の方は膵炎発作が起きやすいようです。膵炎発作の予防のためにも便秘にならないように心がけましょう。寒くなり胃腸炎が流行しています。腸の動きは膵臓の働きにも影響するので予防に心がけましょう。

 

先生方、皆さま、お忙しい中ご参加いただきありがとうございました。

また貴重なお話をいただき大変勉強になりました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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